金髪に出逢うまで
    20歳のころ、金髪のショートヘアにしてみたい!と思いました。
    
でも、「女は、黒髪の長い髪!」という父の言葉、いつ聞いたかもはっきり覚えていないような、そんな幻のような言葉が妙に頭にこびりついていました。
黒髪のままがいいんだ、生まれ持った髪色をがいちばん素晴らしいと思えないのはダメだ、素晴らしいと思えるようにならなくっちゃと、金髪への想いを封印していました。
    それ以来、黒髪のままで、自分が挑戦できる、やってみたいと思えるありとあらゆる髪型にトライしてきました。
    ロングのカーリーヘア、お尻より長いストレートヘアからベリーショート、アシンメトリー、クルクルパーマなどなど。
    
40歳くらいになると、黒髪から逸れて、ザ・茶髪をやったこともありましたが、
金髪にすることだけはどうにも憚られ、
これくらいのヘアマニュキアなら許されるんじゃないか‥
    
今思うとそんなおかしな納得の仕方をしていました。
それらすべてが「2番」や「3番」か、それ以下の「やってみたい」にすぎなかった。
    
どのくらいなら許されるか‥
そればかりを気にして、
ずっと自分の本心を誤魔化してきたのです。
    
    
そんな年月を経て、ある日、ある方に、「あなたのいちばん好きな車は何?」と聞かれました。
その時、頭が真っ白になりました。
    
    
    いちばんって???えっと・・・?
    
は?自分の好きな車だよ?
わかんないの?
そんなの、すぐ出るってもんでしょ。
    
    突っ込まれるほどオロオロして、もっと頭が真っ白になった・・
    
    
    あまりにも浮かんでこず、
    自分の一番好きなものがこんなにわからないなんて、なんて心の貧しいことなのかと思った。
    自分のことを、心が、感性が豊かな方だと信じて、なんなら、自負していたくらいだったのに・・
    
そこから、"自分の一番"てなんだろう?と問いかけ問いかけしているうちに、
長い間押し殺してきた金髪への想いが、「私の一番好きな車」といっしょに絞り出されてきた。
    
    
あ… 私、金髪にしてみたかったんだ。
二十歳の頃、金髪にしてみたいって思ったな、
金髪の女優さんの写真とかみて、妄想してたな。
一番したい髪型って、金髪だったんだ!?
    
    
    いったん気づいてみれば、
何十年も金髪にしないできたことが、不思議でならなくなるほど。
    
そこまではっきりと自分の本心に気づくと、
勇気を出して、とか、思い切って、とか、
そんなふうに力を使わなくても、
自然にそうしてしまえる、んだなと、
初めてそういうことに身をもって気づきました。
    
    
早速ブリーチの得意そうな美容室を探すと、家から車で10分くらいの近場に!
数日後、そちらで、初めてブリーチを経験することに。
    
    
    
ブリーチが済んで、シャンプー台から鏡の前に戻り、
髪を包んだタオルを取った途端‥
    
    見慣れないはずの金髪の自分が、もう咄嗟、一番見慣れた自分だ、
    と思った。
    
    
    初めてお会いした方なのに、そのスタイリストさんは、「お母さんに見せたかったですね・・」と。
    
    思わず、涙が出そうになってしまいました。
    もっと早く、”自分の一番”に気づいていたら、父母が生きているうちに金髪にできていたら、彼らをもっと自由な生き方にいざなえていたかもしれない、そうしたら、彼らは今も元気で生きていたかもしれない、
    そうじゃなくても、父も母も倒れるようなことにならなかったかもしれない・・・
    そんなことまで思い浮かんできました。
    
    
人は、口に出ることは、本心でないこともしばしばあります。
本人もそれに気づけていないことだってザラにあったりします。
    
女は黒髪の長い髪!という父の言葉も、その瞬間の、ぼろっと口から出た思いつきなだけだったかもしれない。
    
    それを私は間に受けただけ。
    そんな私の35年間。
    
人間て、奥深い生きものですね・・
